恋と仕事とダイエットとストレスと。

　19時（954kcal）
　梅じそおろしのカッペリー二/レタスのきのこあんかけ/ＫＩＲＩＮ　のどごし生３５０ｍｌ


「食べる」と言う行為自体が、気になってしまう。
ある種の嫌悪感を感じてしまうのだ。

初めてその感情に気づいた日のことは、今でもはっきり覚えている。

小学校３年の冬。
ある人が、クチャクチャと口を開けて食事していることを耳障りに思った。
それまで一度として気になったことはなかったのに、すさまじい嫌悪感が襲ってきた。
次の瞬間、頭の中で響く自分の食事をしている音を不気味に感じ始めた。

キュウリのボリボリという音。
他人には聞こえない程度の、歯がぶつかる音。
ストーブの上で温め続けられている食事のふつふつと煮える音まで。

そのうち、目に映るものや匂いにまで嫌悪感を感じ始める。
鶏とゆで卵を炊いた後の煮こごりの形。
とうもろこしの不規則な、それでいて歯のような整列。
割り箸の特有の匂い、煮豆の甘い香り。
部屋の中に充満する匂い。湿度。

徐々にひどくなり、ひとりの時も嫌悪感を感じてしまうようになっていった。
そしてヒマワリは、段々とやわらかいものしか食べられなくなった。
他人と話しながらではないと、食事をできなくなっていった。

吐き気を我慢しながら食べ続ける行為。
不毛以外の何者でもない。
食べること自体を拒否したくなり、自分の存在を消す方が楽だと四六時中思案していた。

ある日には、妹が口を開いて食事するのに限界を感じて、いきなり怒ったことがある。
そのことを妹は思い出して、「何を怒っているのかわからなかった」と言った。
それから妹は口を閉じて食べるようになり、今では良かったと思うと言ってくれた。

ヒマワリは、気のおけない人たちとワイワイとにぎやかにする食事か、
ひとりで食べる誰にも何も言われない、気楽な食事を愛していた。

クチャクチャと音を立てながら食べる人間とは、どんな色男でも付き合えないし、
平気で食事を残したりする友人とは付き合い自体の距離を置くようにした。

その嫌悪感は、薄れてはきたものの、今もたまに感じることがある。

ハルちゃんもクチャラー（音を立てて食べる人）が嫌いだと言うから、会ってみようと思った。
彼と一緒に食事をすることは平気だった。
劇的に不器用なため、何かをひっくり返したり、こぼしたりはしょっちゅうだけれど、
そういうのは全く気にならない性格だから、二人でご飯を食べることはできる。

誰かとご飯を食べることができるようになると、恐怖心は薄らいでいくのだ。

そして「食」ということを、昔より少し真面目に考えてみるようになった。
多分年をとったから、ということも大いに関係しているのだけど、
真っ向からひとりの時の食事に向き合ったら、結構簡単に体重が落ちたのだ。

過食も拒食も、強迫観念でさえ、悪いことじゃない。
弱いからでもないし、強いからでもない。
自分は「そういうところがある」ということからスタートするしかない。
人と比べても問題は解決しないし、自分は自分でしかないのだから、責める必要はないのだ。

「食べること」は、悪いことじゃない。
楽しいことでもないかもしれないけど、苦しいことでもない。
食べなきゃいけないと思うから苦しい。食べちゃいけないと思うから苦しい。
どうしても思ってしまうものは仕方ないことなのだ。

仕方ない、ということから始めることにした。
嫌悪感があるのは仕方ない。
あまり知らない相手といると食事に嫌悪感を覚えるのも仕方ない。
だから、どうしようもないこと以外のものを、どうするかだけ考える。

自分を責め続けても、何の意味もないのだから。
責め続けてうまくいかなかったんだとしたら、開き直っちゃえばいいじゃんって話。
違うやり方ってのは、ダイエット方法論だけじゃなくて、自己認識改革も有効だ。

私は食事が嫌いだ。
でも、楽しく食事することだってできる。
相反することが多々ある。
それだけの話。